海外相談Q&A

外国籍を取得した者にも、日本での相続権はあるのか


Q:日本に住んでいる日本国籍を持つ母が亡くなりました。私は10年前にアメリカ市民権を取得して日本国籍を喪失したのですが、私は母の財産を相続することができるのでしょうか?

A:「法の適用に関する通則法」という法律により、「相続は、被相続人の本国法による」と定められています(同法36条)。したがって、被相続人(亡くなられた方)が日本国籍を有している場合、相続人等は、日本法によって決まることとなります。
日本法(民法)上、被相続人の子は相続人となるところ、相続人に国籍の制限はありません。よって、あなたがアメリカ市民権を取得して日本国籍を喪失していても、被相続人であるお母さんの相続権を有していることにかわりはありません。

日本と海外との相続制度の違いについて


Q:アメリカの生活が長くなり、こちらでの資産も多少増えてきました。将来的には遺産や相続手続きについても考えておく必要があると思いますが、日本とアメリカでは相続制度にどのような違いがありますか?

A:日本は相続に関して、いわゆる「包括承継主義」を採用しています。「包括承継主義」では、相続人の死亡によって、その全て財産と債務は直ちに相続人に承継されると考えます。「包括承継主義」を採用している国は、日本のほかにドイツ、フランスなどがあります。
これに対してアメリカ、イギリス、香港、シンガポールなどいわゆる英米法系といわれる国々は「管理清算主義」を採用しています。「管理清算主義」では、相続人の死亡により遺産はいったん「人格代表者(Personal Representative)」の管理下に入り、清算手続きを経た後に相続人に分配されることになります。この清算手続きはプロベイト(probate)と称され、一種の裁判手続として行われます。

 「人格代表者(Personal Representative)」とは、現地で相続手続を実施する者のことで、相続人等からの申請に基づき、現地の裁判所が任命します。人格代表者が行う清算手続きは、遺言の確認、相続人や相続範囲の確定、債務の清算、相続税の支払い等、相続に関するあらゆる手続きを含んでおり、これらの清算完了後の残余財産が相続人に移転分配されることになります。

 なおアメリカにおいても、すべての相続手続きについてプロベイトが適用されるわけではありません。アメリカでは各州法によって具体的な手続きを定めていますので、まずは関係する州の取り扱いについて事前に充分調べた上で、求められる手続きを踏んでいく必要があります。

海外在住者が日本で相続手続きを行う場合の本人確認書類


Q:日本に住む日本国籍の父が亡くなりました。相続人は、日本にいる母と、アメリカに住む私、私の弟の3名です。私と弟は、いずれも日本での住民登録がありません。私は日本国籍ですが、弟はアメリカ市民権を取得しており日本国籍を喪失しています。このたび日本にいる母から、住民票や印鑑登録証明書が必要だと言われたのですが、どうすればよいでしょうか?

A:印鑑登録証明書は、日本における相続手続きに必要な書類であり、遺産に不動産が含まれる場合は住民票も必要となります。しかし日本での住民登録を抹消している場合、住民票や印鑑登録証明書は取得できませんので、これらに代わる書類を、下記いずれかの方法で取得する必要があります。なお日本国籍のある方は下記(1)(2)いずれの方法でも可能です。

(1)在外公館で「署名証明」「在留証明」を発行してもらう

①「署名証明」(サイン証明)とは
「署名証明」とは、印鑑登録証明書に代わるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。日本国籍を有する申請者本人が在外公館に出向いて領事の面前で署名を行う必要があります(代理申請や郵便申請は不可)。なお署名証明には、署名証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書(たとえば遺産分割協議書)とを綴り合わせて割り印を行うもの(綴り合せ方式)と、申請者の署名を単独で証明するもの(単独証明方式。印鑑登録証明と同形式)の2種類があります。申請前にどちらの形式の証明が必要か確認しておきましょう。

②「在留証明」とは
「在留証明」とは日本の住民票に代わるもので、外国に住んでいる日本人が、その国のどこに住所を有しているか、またはその国内での転居歴を証明するものです。日本国籍を有し(二重国籍を含む)、現地で3ヶ月以上滞在し(または3ヶ月以上の滞在が見込まれ)、住所が公文書などで明らかであれば(現地の官公署が発行する滞在許可証、運転免許証、納税証明書、あるいは公共料金の請求書等に住所の記載がある、現地の警察が発行した居住証明など)、原則として本人が在外公館に出向いて申請することで発行を受けることができます(委任状による代理申請や郵便申請が可能な場合あり)。証明に関する詳細や発行までの日数などは、事前に在外公館に直接問い合わせて確認されるとよいでしょう。

(2)宣誓供述書の発行

 「宣誓供述書」とは、公証人の面前で「出頭した者が書類作成名義人本人に相違ないことを確認して、出頭者が提示した書面に署名した」という事実が認証された書面です。日本国籍の有無にかかわらず作成可能です。現地または日本の公証役場で、公証人の前で住所と署名とを宣誓して「宣誓供述書」を公証してもらいます。なお、現地で宣誓供述書を作成した場合、不動産の相続登記においては、宣誓供述書を日本語に翻訳証明付きで翻訳をして、日本においても公証役場で認証を受ける必要がありますのでご注意ください。

 なお、日本国籍がない場合でも、相続手続や日本国内にある財産整理の手続に際して、失効した日本国旅券や戸籍謄本等を提示することで例外的に「署名証明」や「居住証明」(「在留証明」に代わるものとして)の発行が可能な場合もあるようです。全ての在外公館でこのような例外的措置が受けられるとは限りませんので、発給の可否や発給条件、必要書類等は証明を受けようとする在外公館に事前に問い合わせることをお勧めします。

外務省の参考HP http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html

海外法に基づく遺言による、日本国内財産の相続手続き


Q:米国カリフォリニア州に住む高齢の父が、カリフォルニア州法に基づいて遺言を作るつもりだと知らせてきました。父名義の不動産や預貯金が日本にあるのですが、この遺言で、日本の預貯金を解約したり、不動産の名義変更手続きをしたりすることは可能ですか?

A:

1.海外で作成された遺言は日本で有効になるか(遺言の形式的要件)

 お父様が作られた遺言の方式が日本で有効と認められるには、①行為地法(遺言を作成した場所)、②本国法(遺言者が遺言成立時または死亡時に国籍を有した国の法)、③住所地法(遺言者の遺言成立時または死亡時の住所地の法)、④常居所地(遺言者の遺言成立時または死亡時の常居所地の法)、⑤不動産に関する遺言については不動産の所在地法、のいずれかの法で適合することを要します(遺言の方式の準拠法に関する法律2条)。

 ご質問のケースでは、お父様が遺言を作成される場所(①行為地)や、遺言作成時の住所地・常居所地(③④)がカリフォルニア州にあると思われますので、同州法に基づいて作成された遺言の方式は、日本国内で形式的に有効と認められます。

2.日本の遺産を分割する場合は、日本法に基づく遺言書を作成しておくことが無難

 しかし、法的には有効であっても、実際に日本で手続きを行う際には、窓口で取り扱いを拒否されたり、手続きが進まなかったりするなどのトラブルがしばしばあるようです。

 こうしたトラブルを考えると、日本国内での相続手続のためには、日本法に基づいた遺言を作成しておくほうが安全であり無難といえます。日本法に基づいた遺言を有効に作成する方法については Q「海外在住中に日本法に基づく遺言を作成する場合」、日本法に基づく遺言書と海外法に基づく遺言書を双方作成する場合については、Q「日本の遺言書と海外の遺言書、双方作成する場合の注意点」をご覧ください。

海外在住中に日本法に基づく遺言を作成する場合


Q:私は日本国籍で、20年ほどアメリカに住んでいますが、日本にも複数の不動産や預金口座があります。日本に住む子供たちに相談したところ、遺言をのこすなら、日本の方式で遺言を作成して欲しいとのことでした。アメリカで、日本法に基づいた遺言を作ることはできますか。

A:日本国内の遺産について相続手続きを行う場合は、外国法に基づく遺言よりも、日本法に基づき日本語で作成した遺言のほうが、スムーズに手続きを進めることができます(Q「海外法に基づく遺言による、日本国内財産の相続手続き」参照)。

 では外国にいながら、日本法に基づいた遺言を有効に作成するにはどのような方法があるでしょうか。

 日本国籍がある方は、アメリカ在住中でも、日本法に基づいた遺言を作成することができます(本国地法)。

 なお、日本法における遺言の方式には、主に自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言があります。

 自筆証書遺言は「全文自筆」(もっとも、令和2年の民法改正により自筆証書に添付する財産目録はワープロで作成することも可能となりました。)「作成日付」「署名捺印」があれば形式的に有効とされるため、もっとも簡単に遺言を作成できる方法です。

 公正証書遺言は、遺言者が公証人に伝えた遺言内容を公証人が公正証書として作成する遺言です。資格を有する公証人が作成し、2名の証人を必要としますので、自筆証書遺言に比べて証拠力が高く、より確実な遺言方法といえます。

 日本国内では公証役場で作成できますが、海外で公正証書遺言を作成する場合は、在外領事館の領事が公証人となることができます(民法984条)。ただし、領事による公正証書遺言は、日本で作成する公正証書遺言とは形式が異なり、実際の相続手続き時に窓口で拒否されるなど、スムーズにいかない恐れもあります。したがって、日本に帰国して公証役場で公正証書遺言を作成することが困難な場合には、ひとまず自筆証書遺言を作成しておくことになるでしょう。

 なお、日本国内の預金を解約する場合、遺言があっても、遺言執行者(遺言の内容を実現する者)を決めていなければ、実務上、相続人全員の署名等を要求される場合が大半です。そのため、海外で日本法に基づく遺言書を作成する場合には、遺言で遺言執行者を決めておくことが、手続きをスムーズに進めるためのポイントです。

 日本国内にある遺産に関する遺言作成については、当協会で扱っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

日本の遺言書と海外の遺言書、双方作成する場合の注意点


Q:私は日本国籍で、カリフォルニア州に住んでいます。
カリフォルニア州と日本、それぞれに不動産を所有しているのですが、遺言書を残す場合、どのように書くのがよいでしょうか?

A:

1.日本法に基づく遺言書による、海外での相続手続き

 遺言によって名義を移転させようとする財産が存する国が、ハーグ条約のうち「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を批准していれば、当該国において、日本法に基づく遺言書は有効とされます。すなわち、日本法に基づく遺言書によって、海外のその財産がある国での相続手続きは、理論上は可能です。

 ただし、実際に日本法に基づく遺言書によって、海外の財産につき相続手続きを行う場合は、海外の担当者が手続きに精通していない場合、スムーズに進まないこともあり、おすすめできないのが正直なところです。

2.海外法に基づく遺言書による、日本での相続手続き

 また、海外法に基づく遺言書による日本国内財産の相続手続きも、一定の場合には可能ですが、実際に日本で手続きを行う際には、やはり窓口で取り扱いを拒否されたり、手続きが進まなかったりするなどのトラブルがしばしばあるようです(Q「海外在住中に日本法に基づく遺言を作成する場合」)。

3.日本の財産には日本の遺言書を、海外の財産には海外の遺言書を

 そこで、手続きをよりスムーズにすすめるためには、日本の財産については日本法に基づく遺言書を作成し、海外の財産については当該国の法律に基づく遺言書をそれぞれ作成しておくことが、実際の手続きも円滑に進む場合が多いため、おすすめといえます。したがって本件でも、日本の不動産については日本法に基づく遺言書に記載し、カリフォルニア州の不動産については、カリフォルニア州法に基づく遺言書を作成しておくのがよいでしょう。

 ただし遺言書を複数作成する場合は、それぞれの内容が矛盾しないように、注意が必要です。それぞれの遺言が矛盾するかどうか、判断がつきづらい場合や、遺言の作成方法が不明な場合は、当協会までお問い合わせください。

日本法に基づく遺言の形式的要件と遺留分


Q:日本に住んでいた日本国籍を持つ母が亡くなりました。母の相続人は、私と姉の2名です。私が帰国したところ、母の日記を見つけました。そこには「A子(姉)に私の財産を全て相続させる」と母の筆跡で書かれてありました。これは遺言として有効でしょうか。私は全く相続権が無いのでしょうか?

A:

1.遺言の形式的要件

 遺言の方式が有効かどうかは「遺言の方式の準拠法に関する法律」に基づいて決まります。お母様の日記が日本で書かれたのであれば、日本法に基づいて判断されることになります。

 自筆で作成された遺言(自筆証書遺言)の場合、その全文、日付、氏名が被相続人の自筆で書かれており(自筆証書自体はワープロで作成することはできませんが、添付する財産目録はワープロで作成することができます。)、押印されている必要があります(実印である必要はなく、認印でも有効とされます)。

2.遺留分減殺請求

 遺言で、自分の相続分をゼロとされた者は、何も主張することができないのでしょうか。

 日本の民法では、相続人に対し、一定割合については遺言によっても奪えないものと定めました。この遺言によっても奪えない相続人の権利を遺留分(いりゅうぶん)といいます。遺留分は、相続人のうち、配偶者、子(または代襲相続人)、直系尊属のみに認められています。

 あなたの場合、お母さんの相続人はあなたとお姉さんの2名なので、あなたの法定相続分は2分の1であるところ、あなたの遺留分はこの2分の1、すなわち4分の1となります。お母さんの遺言では、あなたの相続分をゼロとされていますので、あなたはお姉さんに対して、自身の遺留分が侵害されているものとして、この侵害額を請求することができます(遺留分侵害額請求といいます)。

 なお遺留分侵害額請求は、遺言の内容を知って1年以内に請求する必要がありますので(民法1048条)、注意が必要です。

 自分に不利な内容の遺言が出てきたなど、遺留分の請求ができるかどうかを確認したい場合には、お気軽にご相談ください。

相続放棄


Q:日本在住の日本国籍を持つ父が、1年前に死亡したのですが、最近になって、父に多額の借金があることが発覚しました。どうすればよいでしょうか?

A:まずお父さんは日本国籍ですので、お父さんの相続手続きについては日本法が適用されます。
日本法に基づく相続では、相続開始時に、債務も含む被相続人の一切の権利義務(一身専属のものを除く)が承継されますので(民法896条)、債務も自動的に相続します。そこで、借金を相続しないためには、日本の家庭裁判所に相続放棄の手続きをとる必要があります(相続放棄の申述といいます。民法938条、939条)。

 相続放棄は「相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に行う必要があります(民法915条1項)。具体的にいつから3ヶ月を計算するかは個々の事案によりますので、お父様が亡くなって既に3ヶ月以上が経過している場合でも、早急に当協会までご相談下さい。

生命保険金は遺産に含まれるか


Q:日本に住む日本国籍の母が遺言を残さずに死亡しました。母は、私を受取人とする生命保険を契約していたのですが、私の兄弟が「生命保険も母の遺産なのだから、生命保険金は子供全員で分けるべきだ」と言っています。兄弟のいうとおり、生命保険金は遺産に含まれるのでしょうか。

A:お母様の相続には本国法である日本の法律が適用されます。この場合、契約者がお母様、受取人が子供の保険金は、受取人が自分自身の権利として取得するものと考えられますので、原則として相続財産には含まれません(日本の相続税上の取扱いとは異なります)。

 しかし、相続財産の総額と比べて、生命保険金の額が多額である場合など、受取人である相続人と、他の相続人間の不公平が著しいと評価される場合には、例外的に、生命保険金は遺産が前渡しされたものと扱い(「特別受益」といいます)、相続手続きの中で考慮される場合もあります。

 相続財産の範囲や評価、分割の方法などで当事者間で話し合いがまとまらない場合、日本の裁判所で調停や審判といった手続きをとることになります。このような場合には、早急に当協会までご相談下さい。

遺留分の放棄と撤回


Q:20年前に渡米して以来、一度も日本に帰らず、母の面倒はずっと妹に任せきりでした。母から、これからも自分の面倒は妹に見てもらうので、遺言ですべての遺産を妹に渡す、遺留分も放棄してほしいと言われました。どのような手続きが必要になるでしょうか。またいったん遺留分放棄の手続をした後に、放棄を取り消すことはできますか?

A:遺留分とは、被相続人の相続財産について、その一定割合を一定の法定相続人に保障する制度です。いわば、被相続人の生前贈与や遺言による贈与(遺贈)によっても侵害することが出来ない、相続人の権利ということになります。被相続人の子は遺留分権利者であり、その遺留分割合は、法定相続分の2分の1とされています(民法1042条)。したがって、母の相続人が子二人である場合の、子それぞれの遺留分は4分の1(2分の1×2分の1)となります。

 遺留分は、相続開始前であれば放棄することができます(これに対して、相続放棄は相続開始前に行うことができません)。手続きとしては、日本の家庭裁判所で遺留分放棄の許可審判を得る必要があります(民法1049条1項)。

 また、家庭裁判所の許可により遺留分の放棄が確定した後でも、その後、背景事情が変化し、遺留分放棄を維持することが客観的に見て不合理となった場合、家庭裁判所は、遺留分権利者の申立により、職権で審判を取り消すことができるとされています。

 ご質問のケースでは、妹は母を一人で介護し、今後も面倒を見るという状況を前提として家庭裁判所は遺留分放棄を許可しています。こうした背景事情が変化し、たとえば、妹さんが介護を放棄し母を困窮させ、その結果、あなたが母を介護するに至った等、遺留分の放棄状態を維持することが客観的に見て不合理な場合にあたる場合には、家庭裁判所に申し立てて、遺留分放棄の許可を取り消すことができます。

 当協会では遺留分について取り扱っておりますので、お気軽にご相談下さい。

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